学校法人先端教育機構『月刊先端教育 創刊準備号』2019年7月号より

【AIに負けない教育を探る】AI時代に求められる「想定外」に対処する教育

来るべきAI 時代に備えプログラミング教育の必修化が2020 年に予定されているが、AI 時代に求められる教育とは何だろうか?
未来の教育に必要な視点を改めて明らかにしたい。


「人間とテクノロジーの関係」に対するアプローチ

最近、「人工知能 AI」という言葉を耳にすることが増えました。マスコミでは、毎日のように「AIが社会を変える」ということを伝えています。「テクノロジー」が発展し人間社会に影響を及ぼすことは、もちろん私も予想していました。しかし、これほどまでに「人工知s能」が急速に発展してきたことは、正直のところ私にとっては「想定外」でした。

私の専門は、「教育学(教育心理学)」および「認知科学」です。この立場から私は、30 年以上にわたり『人間とテクノロジーの関係』についての探求を続けてきました。
1980 年代後半、私は教員養成大学において、ロボット開発の手法をヒントとして自閉症教育を実践する「鉄腕アトムと晋平君プロジェクト」を開始しました。このプロジェクトで私は、それまで「目に見える能力」を中心に扱ってきた教育現場に対し「見えない能力」あるいは「見えにくい能力」の重要性を主張するとともに、「人間とロボットの関係」に関するひとつのモデルを提案しました。
その後、私は母校である東北大学に戻り「ほっとママ」プロジェクトを開始します(1999 年)。このプロジェクトでは科学技術庁(当時)から莫大な研究資金をいただき、「インターネットを活用した子育て・教育支援システム」を開発しました。

このなかで私は、高度な専門職であるカウンセラーの仕事を詳細に分析し、それをそっくりそのままコンピュータに移植するという「コンピュータ・カウンセリング」の開発に明け暮れました。同時にこの頃は、世界中で「eラーニング」が爆発的に普及した時期でもあり、必然的に私は東北大学が実施を決めた全学規模で正規授業を配信する「東北大学インターネットスクール」の開設にも関わることになります。
その後も私は「モーションキャプチャ」や「バーチャルリアリティ」など最先端のテクノロジーを活用し「伝統文化継承支援プロジェクト」や「舞台役者養成支援プロジェクト」「プログラミング教育支援プロジェクト」など数多くのプロジェクトを実施するなかで、『人間とテクノロジーの関係』について探求してきました。

そして2020 年、「教育現場」では「プログラミング教育」の必修化が開始されます。
それはまさに、「AI 時代に求められる新たな教育」の始まりなのです。

私にとって「想定外の出来事」

これまでの30〜40年を振り返ると「想定外の出来事」の連続だったことを、私は実感しています。

まず「想定外」だったのは、「予想とは異なるテクノロジーの普及」です。
1980 年代、研究者にとって最大の目標は「世界トップレベルの高性能コンピュータを作ること」でした(例えば、「第5世代コンピュータ」の開発)。
私自身も、研究機関や大企業が超高性能なコンピュータを駆使して研究や業務を進めるような未来社会を予想していました。しかし現実には、その頃から「パソコン」と呼ばれる安価なコンピュータが一挙に一般家庭にも普及し始め、その「パソコン」が1990年代後半からはインターネット経由でつながり始めます。
さらに、「パソコン」は「スマートフォン」に置き換わり、Web 上の情報量は日々加速度的に巨大化し続けています。いわゆる「ビッグデータ」の誕生ですが、これが2010年頃から始まる「第3次AIブーム」に直接つながってゆくのです。

私にとって第2の「想定外」は、最新の「人工知能」では「だいたい正しければ良い」ということが前提になっていることです。
このことは、「正しい知識」をできるだけ短時間で効率よく「教え込む」ことにより多くの「優秀な子どもたち」を育成してきた「近代教育」にとって、まさに「想定外」です。しかし、「東日本大震災」や「福島第一原発事故」などの経験から(これらも私たちにとっては「想定外の出来事」でしたが)、「正しさはそこそこでも、すぐに行動できる能力」の重要性が指摘され始めたのです。

AI時代に求められる「新たな教育」

これからの「AI時代」では、さらに「想定外の出来事」が日常的に起こる社会になるでしょう。そのような社会のなかで「教育」には、様々な価値観に対応できる能力や多様性の育成が求められます。

例えば、AIによる機械翻訳がほぼ実用レベルに到達した今、海外とのビジネスや交流のために必要な能力は「異なった考え方や価値観を持つ人々と深いコミュニケーションを取とるための能力」です。そのような現場では、「想定外の出来事」や「正解のない課題」が頻発するでしょう。それを解決するためには、個々の学習者が「自分のフレーム(生い立ち、経験、考え方、価値観、文化、宗教……)」を自覚し、その「フレーム」を活かした「主体的な学び」が必要なのです。その結果として身につく能力は、「想定外の出来事」や「正解のない課題」に対して「何とかうまくやってゆく」ための能力なのです(詳しくは、拙著『AIに負けない「教育」』を参照してください)
さらに、将来的には「人間の脳とAIを直接つなぐこと」が可能になるかもしれません(頭皮にセンサーを接触させるだけの「非侵襲型」と呼ばれる方法の研究はすでに多くの成果を上げています)。それは、これまでの「教育」にとってはまさに「想定外の出来事」です。

私たちは、このような「AI 時代」を見据えた上で、「人間にとって本当の知性とは何か?」ということをしっかりと考えてゆかなければならない時期に来ているのです。

「伝統文化継承支援プロジェクト」(2002 〜):「モーションキャプチャ」などを活用し、伝統芸能の保存と若い世代への継承支援などを試みた。写真はモーションキャプチャで舞のデータを収集する様子

プログラミング教育支援プロジェクト(2017 ~):「レゴを活用した教育」を実践しながら、「プログラミング教育」のあり方を探究している。


わたべ しんいち

1957年仙台市生まれ。東北大学大学院教育学研究科博士課程前期修了。博士(教育学)。
2008年から東北大学大学院教育情報学研究部・教育部(独立大学院)の研究部長・教育部長を10年(5期)勤める。
2018年、組織再編により現職。
ホームページ:https://www.watabe-lab.com/

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